扉/為平 澪
 
夜間にバタンバタンと 階下で扉を 
開けたり閉めたりを繰り返す父の扉 
私が玄関の扉を開けっぱなしにして遠方に去ってから 
ずっと開いていた 扉 
帰省する毎に 小さく細く白く可愛く寂れてゆく 
玄関の扉の、隣には 父 
出て行く時 必ず見えた扉と 茫然と見送る父の姿 
夜間に限って階下でバタンバタンと 
父は扉を開けたり閉めたり 
二階では停電させたような部屋で娘は毛布を被っては 
大河がうねるようなクラッシックを 耳を塞ぎながら 
大音量で聴いている 
私が泥棒に見える日、父は扉を閉めたがる 
私が娘に見える日、父は扉を開けたがる 
父が扉を締め切る日、
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