ぼくの記憶の螺旋の、森
その先に蔦の茂った廃屋がある
寂れた椅子に 小雨が降りつづけ、
緑は天を刺す、あるいは、地に従属する
苔生した兵士たちは歩みを止めることもなく
繁茂するシダ植物がぼくの記憶を準えていく
水は胞子に溶けて ぼくの耳を侵食する
森はうずまく心音を刻み、ふるえる、
ぼくの、耳朶、と、ぼくの、ナニ、か、
頭上で鳥が薄い殻をコツリ、と つつくと
落下したヒナが、ぼくのボタンをつつく
ぼくは破れる
胸のボタンから綻びがはじまりながれだす声
(このボタンを縫い付けてあげるから学校へ、
椅子が一つ、消える
(ここにもう一人いた人は一体どこへ行って、
ぼくは踝を蔦の蔓に囚われたまま
聞こえるはずのない、海の音をきいて泣く