爪先/あおい満月
 
君は私の足元にいる。
歩むたびに君は、
どんどん細かくなって殖えていく。
君の一人が、
私の脛を這う。
君は私の毛孔から、
私を引き出して、
私を裸にする。

纏うものがなくなった私は、
針穴に君を通して、
君でできたシャツを縫う。
ヒトガタになった君のなかに、
私が流し込まれる。
私になった君は、
あたたかく甘い匂いを放ち、
夕暮れの街に出ていく。

子供たちはひどくお腹を空かせていた。
屋台のネオンに導かれて、
扉をひらくと、
人のかたちをした白いパンがある。
パンは甘い匂いを放ち、
赤い蜜を滴らせている。
子どもの一人がパンにかじりつく。
すると子どもはとたんに泣き出した。
パンの味は、
転んですりむいた膝小僧の
痛みに似ていた。
辛いともちがう、
やりきれない味だった。

もうすぐ、
お母さんが迎えにくる。
お母さんの爪先は、
虫にかじられたかのように、
血にまみれてぼろぼろだった。


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