耳の背中/あおい満月
喉を鳴らす度に、
耳に響く痛みがある。
痛みには海がある。
耳の背中で、
波音が聴こえる。
鏡がある。
鏡には本当の姿は映らない。
いつもぼやけているこの顔には、
よろこびよりもかなしみがあふれる。
微笑んだ目の下には黒い月がおよぐ。
鏡を、
みがいてもみがいても、
真実は霧のなかに消える。
手のひらのなかに、
水が生まれて、
あらゆるものの、
内面世界の争いを鎮めていく。
滴る水のなかに映るものは、
争いの果てに死骸と化した、
金魚たちで。
わずかな口もとから、
浮かび上がる気泡は、
自分たちが生きていたという、
証を叫ぶ最期の息吹き。
空と海がかさなる。
新しい時間が生まれて歩きだす。
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