耳朶/あおい満月
乗り込んだとたんに、
眠りが手を伸ばす列車。
眠りの手を掴んで、
ともに溺れようとする頭のなかで、
死んでしまいそうになるのを恐れて、
目を覚ましても、
窓の外は平行線だ。
その平行線のうえを歩こうとすると、
風が強くて地面に叩きつけられることを想像すると、
耳朶が冷たくなり、
手が熱くなる。
私の母親の目は、
牛乳だから、
そんな悪い不純物は含まない。
私は母親を羨ましく思う時がある。
黒や茶色や、
色々なものをない交ぜに、
含みすぎている私の目は、
真実と嘘を見抜けない。
嘘の真実と、
真実の嘘を、
両手に抱えて歩いている。
時々、
私は街から消える。
私という意識の中から、
私を消す。
この身体が、
人々から見えなくなれば、
どんなに不自由で楽なことか。
胸の奥の、
警戒にいつも震えている、
この肩を抱いてくれる腕があれば、
消えてしまいたくなくなるだろうか。
空は晴れない。
太陽の背中が、
ビルに映る。
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