風船/あおい満月
ほんとうのことを、
ただ、ほんとうのことを、
触られたくないばかりに、
腹に膜をつくった。
人はそれを「ウソ」と呼ぶだろうか。
半透明のしらたきみたいな私の膜は、
私をみるみる肥らせて、
私は宙に舞い上がった。
舞い上がる私をみて人は、
(見て見て、ウソ風船が翔んでいくよ)
と笑った。
いつからだろうか。
こんなウソ風船を膨らませるように
なったのは。
目が見えにくいのを、
目をすかすことでごまかして、
焦点を結びつける。
それでも帳尻が合わないときは、
紙を被せてふせておく。
そんな荷物が重たくなって、
部屋に放置する。
私の腹もそんなものが空気になって膨らんだ。
ウソ風船は、
きっと誰の胸のなかにもあるのだろうか
人々は真実に向かうために、
どこかで折り合いをつけて、
風船を割りながら生きている。
ウソ風船でふくれた人の身体は、
骨と皮だ。
もう後がないと、
切り札を探して路上を
不自由に歩き回る。
ごらん、
また一人、
飛んでいった。
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