街を抱く街/あおい満月
 
そこは、どこへいっても、
同じ通りだった。
人の声や気配はするが、
誰もいない街だった。
けれどどことなく誰かの眼差しを感じた
誰かが見ている。
街が私を見ている。
この街全体が誰かのようだった。
街が街を抱いている。
街が呼吸をしている。
地面から鼓動が聴こえてくるような、
気配が私の皮膚をすべりおりる。

路地裏から、
少年が表れる。
少年は私にひとつの水晶を渡す。
氷のように冷たい水晶に、
昨日の私が映りこむ。
少年は猫のように歯を剥き出して
笑うと路地裏へと消えていった。
少年によく似た猫が欠伸をしている。

街の中心に、
一本の塔がたっている
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