桜水食堂/レタス
黒い大蛇が棲むという石橋を渡れば
桜咲く岸辺に
そこには大衆食堂が在った
憶えているお品書は
カツ丼
カレーライス
精進揚げ定食に
銀だらの照焼くらいのものだ
砂利道を挟んで
タイサンボクの薫る洋館があり
白髪のおばあさんが怖かった
夕方になると
食堂の姉様が白熱灯のスイッチを引き
白く大きな羽根の蛾が集まってくる
母が大病を得て
必死に働く父の背中が懐かしい
遠足や運動会の弁当は
食堂の親爺さんが作ってくれた
美味しい
美味しい
おにぎりと銀だらの照焼に出汁巻き玉子
ぼくたち兄弟と姉妹は
近所の人々に守られ
生きてきた
いま
涙が止まらない
戻る 編 削 Point(4)