桜水食堂/レタス
 
黒い大蛇が棲むという石橋を渡れば
桜咲く岸辺に
そこには大衆食堂が在った
憶えているお品書は
カツ丼
カレーライス
精進揚げ定食に
銀だらの照焼くらいのものだ

砂利道を挟んで
タイサンボクの薫る洋館があり
白髪のおばあさんが怖かった

夕方になると
食堂の姉様が白熱灯のスイッチを引き
白く大きな羽根の蛾が集まってくる

母が大病を得て
必死に働く父の背中が懐かしい

遠足や運動会の弁当は
食堂の親爺さんが作ってくれた
美味しい
美味しい
おにぎりと銀だらの照焼に出汁巻き玉子

ぼくたち兄弟と姉妹は
近所の人々に守られ
生きてきた

いま

涙が止まらない





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