境界線/あおい満月
ピアノ。
私はいつも、
ピアノが弾けない。
キーボードにならたくさんの、
物語を描けるのに。
私は私のピアノの前に、
いつも立ち竦む。
もう何年になるだろうか。
私が原稿用紙に、
ことばを書かなくなってから。
私は原稿用紙が怖い。
思考が立てになっていき、
想像が滲み出ない。
文字の正確さと、
感性の鋭さが比例しなければ、
原稿用紙と私の境界線を、
越えることができない。
ピアノもきっと同じだろう。
ピアノは、
私を見つめたまま、
静まり返った水面のように動かない。
私はピアノを横目に見ながら、
夜の部屋で、
キーボードに向かい、
また新しい曲を生み出している。
深夜、
ピン、と一声、
ピアノが鳴いた。
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