境界線/あおい満月
 
ピアノ。
私はいつも、
ピアノが弾けない。
キーボードにならたくさんの、
物語を描けるのに。
私は私のピアノの前に、
いつも立ち竦む。

もう何年になるだろうか。
私が原稿用紙に、
ことばを書かなくなってから。
私は原稿用紙が怖い。
思考が立てになっていき、
想像が滲み出ない。
文字の正確さと、
感性の鋭さが比例しなければ、
原稿用紙と私の境界線を、
越えることができない。
ピアノもきっと同じだろう。

ピアノは、
私を見つめたまま、
静まり返った水面のように動かない。
私はピアノを横目に見ながら、
夜の部屋で、
キーボードに向かい、
また新しい曲を生み出している。

深夜、
ピン、と一声、
ピアノが鳴いた。



戻る   Point(4)