といれのかみさま/服部 剛
するその時も
といれの薄汚れた壁にかけられた
2月のカレンダーの中では
水面(みなも)の凍った阿寒湖(あかんこ)で父と子がしゃがみ
氷の穴に釣り糸を垂らし
青い闇に銀色の光で泳ぐワカサギが竿(さお)をしならせる瞬間を
ほのぼのと待っている
それでもなお
大事なものの全てを封じ込めるように
といれのドアを背後にしめて
僕はこの世に舞い戻る
小脇には
といれのかみさまを
大事に抱えて
( 窓の外では
正午を知らせる教会の鐘の音が風にのり
世界には無数の透明な鳩が羽ばたいていった
青く澄んだ
空の向こうへ )
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