といれのかみさま/服部 剛
鈍く光る銀色のドアノブをひねり
といれに入ると
窓辺にはうす桃色の薔薇(ばら)が咲いていた
水色のすりっぱには
背中合わせのふたり
男の子は贈る花を背に隠し
女の子は四葉のクローバーの葉をちぎり
風に放っていた
すっきりとして
日常のもやもやの全てを便器に流すと
薬用石鹸(せっけん)「キレイキレイ」には
白球を手にした野球少年と
花を手にした女の子と
ふたりの小さい手を取って
間に立つお母さんと
みっつのほほえみを並べていた
今までの想い出の全てをといれに残し
洗った手でドアノブをひねり
外へとつながるこの世へのゲートを
くぐろうとする
[次のページ]
戻る 編 削 Point(6)