といれのかみさま/服部 剛
 
鈍く光る銀色のドアノブをひねり
といれに入ると
窓辺にはうす桃色の薔薇(ばら)が咲いていた

水色のすりっぱには
背中合わせのふたり
男の子は贈る花を背に隠し
女の子は四葉のクローバーの葉をちぎり
風に放っていた

すっきりとして
日常のもやもやの全てを便器に流すと
薬用石鹸(せっけん)「キレイキレイ」には
白球を手にした野球少年と
花を手にした女の子と
ふたりの小さい手を取って
間に立つお母さんと
みっつのほほえみを並べていた

今までの想い出の全てをといれに残し
洗った手でドアノブをひねり
外へとつながるこの世へのゲートを
くぐろうとする
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