路線図/服部 剛
あの日、僕は立ち尽くしていた。
天使について綴った原稿を
夢の鞄に入れたまま
古びた出版社の、門前で。
地下鉄の切符売り場で
曇り空の東京の地面の下
蜘蛛の巣状に張り巡らされた、路線図を
呆けて空けた口のまま、仰いで。
何処の出版社に飛び込めど
大抵は門前払いで
時折、優しい編集者は…五分ほど
ほとばしる僕の言葉に頷いては
「お役に立てるかわかりませんが」
と、頭を下げた。
今日、僕は再び
切符売り場で、路線図を仰ぐ。
ふいにそよ風は頬を撫で
瞳のレンズに瞬く――フラッシュ。
蜘蛛の巣状の路線図は
無数に巡る、縁(えにし)の糸に
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