ワイン/あおい満月
感覚が感覚を呼ぶ、
空気にのせた音というもの、
私の声が、
はらりと涙のように、
紙の上に落ちると、
私の声はさかなになって、
紙の上を泳ぎだす。
そしてひとつの感情を繋げて、
物語を描く。
感覚が感覚を殺す瞬間、
愛撫が凶器になり、
愛情が炸裂する。
そのさまを、
私はまだ知らない。
いつもカプセルのような部屋で
魂を繋いでいる尻尾のような、
鎖を舌で転がしていただけだった。
私の頬を叩いた、
あの冷たい手のなかでは、
確かに赤い炸裂はあった筈だ。
母親が私の首を絞める。
指圧が喉の奥にめり込み、
私は呼吸ができない。
歪んだ連鎖を断ち切らなくては、
いっそのこと私を殺したいと囁く。
酩酊した魂が、
夜の街をさまよう。
握られた手のひらには、
数枚の硬貨が。
街の明かりが目の縁に歪む。
帰りたいのは、
母親をワインの瓶で殴り倒しても、
私に鎖を吸わせた、
あの手のなかだけだった。
残された記憶のなかで。
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