神棚のサドル/カンチェルスキス
 
 


 枝分かれした樹木に、自転車のサドルがのっかっている。
 とある駅前の手狭な広場だった。樹木が二本あった。駅側は桜、道路側はたぶん楠。サドル仕様になっていたのは、楠のほうだった。二つに分かれた幹から、さらに四つか五つに枝が分かれ、途中で切断されていた。そのうちの一つに、まるでハンチング帽みたいに自転車のサドルがのっけられていたのだ。
 線路を跨ぐ国道の高架が、駅を見下ろしている。長い間、私は呼吸荒く、高架を上り下りしていた。下道を初めて知ったのは、高架の入り口を左に逸れていく地元の高校生を目撃したときだった。やがて踏み切りと駅が見えた。知らない道を知るとなぜかうれしい。地元の学生
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