会話の練習 『ゆらゆら揺れるものだから』/カンチェルスキス
 
 


 夕暮れどきの港。
 偏光グラスが西日に反射する。その中年男性は、釣り人である。通り過ぎたとき、私に声を掛けてきた。
「こんにちは」
「こんにちは」
 私も応じる。「釣れましたか?」
「ええ、今晩のおかずぐらいは。十数匹ですけど」
「ほぅ、上等じゃないですか」
「まぁ、上等です」と男性は微笑む。
「御の字ですね」
「ええ、御の字です」
「あのぅ、増えるわかめはご存知ですか?」と私。
「知らないです」と男性。
「元々はぎゅっとなってるんですけど、水に戻すとぶわぁ〜っと広がるんですよ」
「女子の高校デビューの話ですか?中学で暗かった娘が、知り合いのいない私学で垢
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