海を噛む/あおい満月
 
その肩を掴んで、
どこまでも歩いた。
思念が浮かんでは、
沈みを繰り返した。
私は痛む胸を押さえながら、
水のなかに深く沈む。

たくさんの目が、
目のなかの目を見つめている。
目のなかに風が吹き抜ける。
私の目も、
風のなかに浮かんでいる。
手のひらのなかの目は、
あたたかい海を流している。

耳は耳のなかに、
海を噛んでいる。
耳のなかの海は、
かたい殻を孕み、
雨にからめとられ、
乳児を抱くようにまるくなる。
耳はただ、
繰り返される胎動だけを聴いている。

その肩を掴んだ手が、
ふと歩みを止めた。
思念の先が音もなく割れて、
ことばにならない音が、
とめどなくあふれる。

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