指先の声/あおい満月
何かの気配に目という耳を澄ますと、
背後に誰かの指をみた。
振り返ると、
目から耳を、
耳から指を、
指先から声を垂らした、
私が立っていた。
私の指先から垂れる声は、
ひどく力なく、
猛烈に何かを乞うていた。
指先から垂れる声が、
蚯蚓になって私の脛を這う。
私は振り払う。
蚯蚓になった音は、
私の毛孔から出入りし、
また別の蚯蚓を連れてきた。
私の身体は、
低周波音が鳴り響き、
鼻から真っ赤な顔をした、
蚯蚓が流れてくる。
爪の隙間から覗く、
赤い煉瓦のような家の塀は、
異臭を放ちながら、
私の鼻先を蹴りあげる。
埃の混ざった都会の風は、
あらゆる嗅覚という嗅覚に
モザイクをかける。
嘲笑うかのような、
鴉の爪が眉間を掠めた。
変化のない伸びすぎた、
日常を切り落とすと、
冷たい風が吹いた。
心地よい風だが、
切り落とされた足跡は、
不揃いの切っ先が、
からからと耳障りに笑っている。
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