貼り紙世界の果て/カンチェルスキス
 
さっきから野球少年の熱のこもったボールを受け止めていたのは、これだったのである。おそらく、十数年前にはすでに、掲示板としての役目は終わっていたに違いない。新しい案内やポスターが貼られることも今後きっとないだろう。今度は、ただの壁として、熱のこもった野球少年のボールを跳ね返す新しい役割を得たのである。掲示板の進化形である。
 私が通った後も、野球少年は練習を続けたに違いない。振り返るまでもなかったのである。
「そう言えば、俺も子供の頃、近くの河川敷の草野球場で、近所のあんちゃんたちと、ぼろぼろのボールで毎日バッティング練習したな―」
 と、回想してみせる私に、野球少年だった時期などないのである。沈む夕日の美しさが勝手にそう思わせたのである。なぜか溝堀に心惹かれるのである。





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