武士の3分/カンチェルスキス
前方から、二台の自転車がやってきた。幼い女の子と母親である。ときにハンドルをくねらせ、お気に入りのアニメソングさえ、聞こえてきそうである。女の子は自転車に夢中だった。その後ろに母親。ごくありふれた日常風景である。
急に、ハンドルを握る私の手が、汗ばんだ。季節のせいだけじゃない。私も自転車だったのである。ガードレールの狭い歩道だった。どちらかが道を譲らなければ、通ることはできない。世が世なら、斬り捨て御免である。
見かけによらず、日頃から武士道な私としては、道を譲るわけにはいかぬ。未来を担い、出生率の向上で社会貢献する母子であっても、である。私は武士だ。下々を何人切ったところで、
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