能面の女/
服部 剛
能面被って
声を、殺して
あえて明るい色彩の着物を身に纏い
たとえそれが千年昔の恋物語であり
源氏に捕らわれた重衡(しげひら)が、死刑へ歩む
前夜の密やかな宴だとしても
透けた涙を、袖で拭い
踊り、舞うは
頼朝公の慈悲に遣わされた
千手という名の能面の遊女
重衡とすれ違い
交差し、静止する
一瞬に――
永遠(とわ)に消えぬものが、あればいい
能楽堂の誰もいなくなった(松の絵)の
舞台に・・・今も脈打つ
歴史の気配のようなもの
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