道程/鷲田
 
とぼとぼと歩く駅からの道
辺りはすっかりと暗くなり
私の大きな背中は闇夜に消えて行く
道端の草木はもう姿を現さない
自然は朝の生き物だ
若しくは昼間に呼吸する天然物だ

道路には車が行き交う
ライトの光だけが車線を照れしている
並列上の稲妻が勢いを乗せて走っている
道路は空になったか
いや、空の星達が速度となったか
何れにせよ空と地の境目は
闇夜によってコスモのように一体化している

私は何年この道を歩いているのだろう
肩をだらりと撓りながら
私は何十年とこの匂いを嗅いでいるのだろう
新鮮な今日の一日は
私の期待に彩られた残像だったのか
若しくは私の不安に着色された風景画だったのか
私の脳内の記憶が欠伸をする
世界は変わっていない
この一本の道程でさえも
変わったのは何時だって私だったのだ

とぼとぼと歩く駅からの道
それは何時も無音である
人間の呼吸音は不透明な虫の鳴き声に変わる
鳥の囀りは葡萄色の夜空に変わる
とぼとぼと歩くあの曲がり角の横に
私達の住処が何時も通り僅かに光っている
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