赤い砂浜/あおい満月
 
チューブを流れる水流のような
朝の通勤路を、
外れて、
うつりこむ硝子のなかに
入り込みたくなる瞬間がある。

ばたん、と、
荷物を落とした、
そこから私の旅がはじまる。
硝子が割れて、
そこから道が導く。
私は呼ばれるがままに入っていく。

知っているはずの景色が、
感じた瞬間他人になる、
そんなことばを思い出したとき
見知らぬ誰かの腕のなかにいた。
腕には純白のレースが巻きついていて、
はなやかな笑い声のなか、
私は乳児になって、
床に散らばったビスケットの
欠片に手を伸ばしていた。
ビスケットは少し塩辛い味がした。

誰かが呼んでいる。
ここ
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