錆びたベンチ/石田とわ
 


     木々は裸に剥かれ冷たい風に
     枝先を震わせている
     白いベンチは錆ついて
     今はだれも座るものもない
     緑の葉が深呼吸を繰り返す
     あの深くて濃い季節を夢にみる
     あなたは確かにここにいた
     本を片手に煙草をふかし
     その時が来ることを知らぬげに
     静かに微笑んでいた
     あれから何度、
     夏と冬を繰り返したのか
     まわりの景色は少しずつ
     色褪せ、色鮮やかに変貌し
     そんなものに囲まれながら
     今日も一歩、
     あなたに近づいてゆく
     ゆっくりと確実に。
     凍える灰色のこの景色も
     錆びてしまった白いベンチも
     季節の巡りに身を委ねている
     怖れることはなにもないのだ
     あなたが通った道ならば
     わたしは歩んでいける
     ひとりでも







     
     
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