世界/鷲田
私達の目は形の無いものをどれだけ見つめることが出来るだろう。昨日の陽の光の形を、10年前の雨の滴る上空を、過ぎ去った記憶の思い出を。薄ぼんやりとした過去の欠片は、今日の一日をボロボロと噛み砕いている。肯定に辿り着く作業を開始するために、音を立て、破壊している。そうして、噛み砕かれた過去は分解され、四方に散らばる。散らばった断片の思い出は記憶の中で新たな物語を創る。肯定は否定を凌駕しようと立ち向かい、記憶の再構築を行う。ニヒリズムは彼方に逃亡し、幸せを呼び寄せる感情が到来する。ニヒリズムにあるのはennuiな態度だけだ。そして、斜に構える休息の風景だけだ。我に返る時間、否定を否定する強さが片隅に凛と
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