夢に沈む前に ※(大幅修正)/佐藤守
 
まどろみのなか
遠いむかしに別れた
あなたが耳元で囁いた

「今までごめんね」

咄嗟にあなたを探したけれど
シーツの乾いた音がしただけだった

また
さよならも言わずに

***

眠る気になれず
外を散歩することにした

「今までごめんね」

かすれ声が
薄暗い路地に震えた

***

二人で散歩しないか、と
久しぶりに誘ったあの夜

待ってるよ、と
あなたは優しく笑って断った

帰宅すると
どこにもいなかった

あれからわたしも
長いこと待っていた

***

あなたは
雑踏に身を投じ
今夜も疲れ果てて眠りにつく
わたしのことなど微塵も考えることなく

そしてわたしは
さっき見た夢の中で
あなたの名前を
一度だって思い出すことが出来なかったよ

さよなら
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