黒い手袋/為平 澪
い。
けれど、安易に買われて冷たい外景に放り出された「かなしみ」は尖ったまま
突き刺さって地下へと、人間の足首を掴んで、引きずりこもうと容赦はない。
「にくしみ」は吹き叫ぶ。「かなしみ」突き刺さる。凍える吹雪の中を白い
風景に揉みくちゃにされながら、黒い手袋の周りに渦を巻くその黒い怒りは
一層際立って、私を見据えて私を燃やそうとしていた。
※
トイレで赤い卵を二つ、割って流してきた。冷蔵庫の扉を開いたら、突然割れた
二つの玉子。目玉焼きにして黒コショウで焼き上げたのに、口から私の身体の、
どこかに埋もれてゆく。あの遠い駅で黒い手袋を見つけた私の頭にのぼる目玉。
私は体の下腹部をさすり素手で言い聞かせる。
/もう、メタファーで動く生活だけはしたくない。
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