ポケット/あおい満月
 
唇にできた黒い証を、
たくさんの指が掠めていった。
黒い証は、
誰の手にもぬぐいされはしなかった。

ある日、
舌に同じように、
黒い証を持つ人に出会った。
彼は私の唇を目で掠めていった。
その時、
はじめて私の唇の黒い証が、
剥がれ落ちそうになった。

林檎のように、
夜にかじられていく月の下で、
私たちは互いの黒を掠めあった。
黒を掠めあうたびに、
私たちは互いの内側の違う場所に、
できはじめていく黒を掠めた。

飴が口のなかで溶けている。
飴は薄い一枚の硝子になって、
その黒い証のある舌のなかで、
空のない星を探している。

手鏡がポケットのなかで鳴る。
私は手鏡を覗く。
手鏡に映った私の唇には、
星になった舌をもつあなたの黒い証が
星になって光を探している。


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