風の寅次郎/服部 剛
 


「柴又ぁ〜、柴又でございます」

京成の電車を降りて瓦(かわら)屋根の駅を出ると
前方には旅に出てゆくとらさんの像が凛(りん)と立ち
柴又の町を振り返り、みつめている

店の前の木椅子に座り
目玉焼きをのせた焼きそばを口にかきこんでいると
隣に座っていた太った金髪の女が
その隣の気弱そうで猫背の男に
がなり声をまくし立てている

「何度言ったらわかるんだコラ!
 おめぇは聞いたことが
 右の耳から左の耳へ
 つーーー
 と新幹線並みに抜けちまうでねぇか!
 今度同じこと言われたら
 ただじゃあおかねぇぞ!コラ!」

「・・・聞いてるよぉ
[次のページ]
戻る   Point(12)