風の寅次郎/服部 剛
一
「柴又ぁ〜、柴又でございます」
京成の電車を降りて瓦(かわら)屋根の駅を出ると
前方には旅に出てゆくとらさんの像が凛(りん)と立ち
柴又の町を振り返り、みつめている
店の前の木椅子に座り
目玉焼きをのせた焼きそばを口にかきこんでいると
隣に座っていた太った金髪の女が
その隣の気弱そうで猫背の男に
がなり声をまくし立てている
「何度言ったらわかるんだコラ!
おめぇは聞いたことが
右の耳から左の耳へ
つーーー
と新幹線並みに抜けちまうでねぇか!
今度同じこと言われたら
ただじゃあおかねぇぞ!コラ!」
「・・・聞いてるよぉ
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