鋳掛屋/梓ゆい
 
「砂場の中に、小さなスコップが埋もれている。」
 幼い頃
 父と遊んだ記憶と共に。
 足跡を辿りたくて・確かに存在する思い出を取り返したくて
私は無心に穴を掘る。
 「お父さん。お父さん。」
 辿れども
辿れども
暗く深い空間ばかり。
 「いつの間にか、何を見失ったかを見失った。」
ームイシキニサケテイタ、キオクノナカデ。−
 薄汚れていた指の隙間から
 さらさらと砂が落ちる。
ーコワシタモノヲ、セメタテルヨウニ。−
 足元に積もるほんの一瞬
 見えたものがあった。
 絵本を抱えて座る父の膝の上。
 鮮明に残る人参の赤と卵の黄色。
 (後部座席で私は眠っている。振動をゆりかご代わりにして。)
 寄り添って眠る私と妹たちを眺め
起こさぬようにと父は頭をなでる。
 「どうか娘たちが、より良い人生を送りますように。」
 祖父と祖母に連れられて
父はしっかりと手を?いだ。
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