プルタブ/あおい満月
(入れたい入れたい入れたい入れたい入れたい入れたい)
せりあがる濁流を押さえる、
マンホールのように、
私は夜の車内で唾を飲み込む。
森をくぐり抜けた夜空には、
どこまでもついてくる
三日月の後れ毛。
蚯蚓のようにゆったりとした電車を
降りたホームには、
針になり頬を刺す北風が飛び、
(入れたい入れたい入れたい入れたい入れたい入れたい)
感情が兎の耳のように撫でられていく。
雑踏を掻い潜り、
私は蛍光灯の下で、
プルタブをあける。
歓喜に沸き上がる、
熱に濡れた空気が、
腕になり私の首を包み込む。
熱が、
首筋から鎖骨を滑り肩へ、
私の曲線を走っていく。
私は感じる。
これが、愛の瞬間だと。
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