麺麭の顔   /服部 剛
 
自分の中に、経験が溜(たま)ってくると
いよいよあなたと私に、別々の顔が現れる。

背が高いとか、低いとか
体が太いとか、細いとか
頭が良いとか、悪いとか

線を引くという行為の、ナンセンス。

(存在の比較を――消去せよ。
 背後から日射す、ゆりいか!)

燃え盛る、竃(かまど)の扉を開き
鉄板を引き出せば
大きさ・形・焼き具合の
唯一無二な麺麭(パン)達が
和やかな顔をほっくり並べ
しゅるしゅる…湯気を昇らせる。





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