冬の針/あおい満月
 
風は呼ぶものではない。
風はじっと待つものだ。

あの日、
あなたは泣きながら、
私にすがりながらそう言っていた。
娘である私の拳は震えていた。
握りしめた拳は赤く腫れ上がり
皮が剥けていた。
あたたかいけれど、
冬の針をくるませた風が、
拳を突き刺していく。

*

あなたは夜がくると、
自身の死を悟る言葉を吐く。
唾を吐きながら、
置いたはずの靴下の場所も忘れて。
娘である私は知っていたが、
気がつかなかった。
あなたが夜毎トイレに向かい
日頃の吐瀉物を吐き出していたこと。
あなたには安らぎはなかった。
私を産んでから、
神は耐えられない試練は
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