葱を刻む/あおい満月
無知のまま、知ろうともないで、
ぐりぐりと孔をまさぐるあなたは、
ややもするれば悪になってしまう。
あなたという私の憎悪を、
優しく抱きしめる、
あなたの腕が皮肉にあたたかい。
私はその腕に刃を立てて、
私とあなたの温度を確かめる。
*
私はあなたにすべてを
打ち明けたつもりだ。
あなたは洞窟で、
絶食寸前の沢蟹のように、
私の耳の中をまさぐる。
その騒音に飽きて私は、
あなたをそっとさとす。
(皆誰でも同じじゃないの。
それぞれ進む早さは違うものよ)
私は蟹に白い錠剤を与えた。
蟹は死んだように眠りに落ちた。
**
翌朝あなたは、
何事もなかったかのように
朝日の差し込むリビングで話す。
とぼけた笑顔でおはよう。
私は一抹の殺意を感じて、
葱を切り刻む手を早める。
どんどんどんどん早める。
葱は水になっていく。
私の感情も水になる。
水は燃えていく。
燃える水は拡がり、
私を包み込み、
光ある未知へ導こうとする。
私はあらゆる闇を振り切り、
光のあとを抱きしめる。
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