崖の上/あおい満月
木枯らしが吹くビルの下で
私は一人佇む。
北風が、
繊維の隙間をすり抜けて、
肌に差し込む。
私は皮膚という皮膚の
口を大きく開けて、
舌に降り注ぐ血のぬくもりを抱きしめる。
あなたが間違いだったと、
私が浅はかだったと、
世界が反旗を翻しても、
この舌の血のぬくもりの軌跡は消せない
どうしてだろうか。
このざらついた錆の後味を愛してしまうのは。
戒めの夜にはいつも肌に当ててしまう
ナイフの痛みと懐かしさの感触。
あなたには話せなかった。
はにかんだ笑顔の背中では。
私はいつも、
あなたに咲く花でいたかったから。
何も言わず今は、
何もためらわず今は、
その笑顔を抱きしめていよう。
これからどんな過去が、
この肩に噛みついてこようとも。
私は立つ。
私というこの崖の上に。
そうして世界を見渡し、
ことばを海に投げよう。
あなたを愛していると。
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