箱/あおい満月
を学歴や家柄やその人の特徴を
なんらかの箱のなかに納めて考えなくてはいられない人格なのだと。
私を障害者という箱に納めようとした、
あの男への感情がドアを叩いて甦る。
.(この男、殺したい)
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遠い夏の日が甦る。
暑い縁側でまだ小学生の私が、
西瓜をかじりながら母親に聴いてみる。
(ねえお母さん、あのお父さんを殺したいと思わないの)
当時、
父の激しい金遣いと女遊びに
しびれを切らしていた筈の母の背中に聴いてみた。
振り返った母は笑顔で、
(バカだね。馬鹿を殺して刑務所に入る運命なんてお母さん送りたくないよ)
家の隅から、
蝉の声だけが聴こえていた。
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(バカを殺して馬鹿を見る)
私はクスリと笑って、
多分あの日の母のように、
(この男、殺したい)
感情をびりりと破いて、
そっと春のような冬の風に溶かした。
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