薔薇/あおい満月
 
真夜中に映し出された、
渇ききった林の奥の瞳は知っている。
ほんとうは、
誰にも何にも、
降る雨などないということを。
それは与える愛ではなく、
誰の胸の奥に必ず咲いてしまう
甘ったるい花の蜜だ。
娘の手はいつもがさついている。
真冬のビル風に打たれながら。

*
叩かれた肩を振り切って、
前へ前へ雑踏を進む、
いつだって喉を枯らした
草食動物たちは力一杯叫んでいる。
(一緒に水を飲まないか?)
娘は誰も信用しない。
信じているものは、
この右手に一輪の薔薇を手向けてくれた、
何もかも知っている月のような、
あの瞳だけ。
けれどあの瞳の腕のなかには、
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