年の瀬のそば屋にて   /服部 剛
 
浅草のそば屋の座敷で、酒を飲む。

年の瀬の店内は無数の会話で、飽和して
向かいの席に数分前、若いふたりが坐った。
隣の机で、三人家族は静かに語らい
幼い息子はパパの腿(もも)に、じゃれている。

今朝、七つ上の姉さん女房は
家の曇った窓を拭きながら
「いってらっしゃい!」と
送り出してくれたので、僕は
ちびり…ちびり…
こうしてお猪口(ちょこ)を、啜ってる。

お猪口を啜っているうちに
年の瀬に賑わう人間達が
何故か無性に愛しくなり
みるみると…視界はぼやけ
僕は厠(かわや)に、駆け込んだ。

厠から出た、僕は
ポケットから携帯電話を取り出して
ショートメールで
「嫁さん」宛に一行の言葉を、送信した  





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