ざくろ/光冨郁埜
むせぶほどの温もりがあって
水道水をながしつづけ
洗われる傷痕を かかえて
ひとは そこに 立ち尽くしている
しだいに服が 紫に 染まっていく
ときには 手を振って
ひとを はらおうと
歪めながらも 赤茶けた 言葉を発しても
傷つけてしまうのは
叩かれるために 生まれた 子だからか
手を伸ばして 触れることのできる
その傷痕が またひとつ
痛みを ともなって 生まれてくる
こころをつつみかくして
ぶきように微笑んでみても
紫にむくれた 痛みに 耐え切れずに
声を発してみても
とどかずに だれもいないほうをみる
ほんとうは
その先の 言葉も言えずに
またひとを 叩いている
自分の胸に ひっかき傷をつけている
自分の手首を 焼いている
ざくろの実の代わりに
落とされた
手首が テーブルに置かれる
くもった音がひとつしたきり
閉じていた目が 夜 ひらく
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