空/あおい満月
 
沸騰する憂鬱を、
跳ね返すことばが、
さかなになって脳裏を横切っていく。
それを掴もうと、
手を握ったり開いたりしてみても、
私は海底に沈む難破船になって
視線を落とす。

*

その人はただ、
薄っぺらいコートを羽織っただけだった
けれどそのコートのポケットのなかには
たくさんの色とりどりの鞠を、
忍ばせていた。
私とその人は、
いつも同じ道を走っていた。
同じ絵筆を持っていた。
その人の絵筆には色がついていた。
私の絵筆には空がなかった。

**

云いたいことならたくさんあった。
けれど、
いつもあの海の優しさにのみ込まれてしまう。
ゆりかごの、
すべてをゆるしてしまう腕のなかで
けれど、それがよかった。
あの人へのすべての目。
そのすべてか今の私の呼吸なのだから。

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