ヴァイオリン・ソナタ/ヒヤシンス
野薔薇の咲き乱れる公園で私は待っていた。
ベンチに腰掛けている私の面前を物言わぬ者達が通り過ぎてゆく。
遠い記憶を辿ると確かに私はここで待っていた。
緑に塗られたベンチの端の方、そこだけ塗装が剥げている。
公園の中央に位置する噴水は白い飛沫をあげている。
どこからともなく幼い子供たちのはしゃぐ声が聞こえる。
ふと気が付くと、散った薔薇の花びらにも美が寄り添っていた。
私は失われた言葉を待っていた。
長い年月をかけて、公園の門扉は錆びていた。
隣のベンチに一人の老人が座った。
彼は何やら独り言を言っている。
わかってる、わかってる。
私は彼の
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