歌はもう歌わないと決めたけど/夏美かをる
 
もう二度と歌は歌わない
そう決めたのは
合唱コンクールの練習の時
隣の子がクスッと笑ったから
以来本当に僕は歌を歌わなかった
音楽の時間は口パクで通したし
歌のテストの日はズル休みをした

所詮僕は“歌声”と共に生まれて来なかった
父も母も“歌声”を持っていない
遺伝という言葉で片付ければ納得がいくこと
そもそも“歌声”などなくても困ることはなかった
代わりに僕のクラリネットが
思い切り歌ってくれていたし

君が隣のクラスに転校してきたのは
新緑のまばゆい季節だった
肩を揺らしながらぎこちなく歩く君の姿を
以来何度か見かけた
けれど君とは一度も会話を交わすこと
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