丸い背中   /服部 剛
 


作り笑いで礼を言いつつ
口には出さぬ、言葉を思う
(あんまりあわれまれるのもなぁ…)

  *

3週間ぶりのトメさんが
朝の道の遠くから
段々と…近づいてくる
(最近は土曜が休みだったので)
目線を上げたトメさんと、目が合う。

――あらあなた、ボク元気?
――はい、元気、だいじょぶです!

爽やかな朝のあいさつ
トメさんは病院へ
僕は職場へ

背後に遠のいてゆく…丸い背中を、
振り返る
何故か突如、小さい言葉の温もりが
これから日々の現場へ向かう
僕の胸中にじゅわ、と沁みた。

  *

ふたたび土曜の夕方

――またお待ちしてます

窓越しに手を振り
トメさんを乗せた送迎車は、門を出る。
隣で手を振っていた上司は、呟いた。

――来月からトメさん、息子夫婦と離れ
  団地でひとり暮らしなんだよな…  







戻る   Point(2)