傷/ヒヤシンス
 

 名も知れぬ花々が倦怠を司っている。
 彼方に聳える山々が郷愁を誘う。
 人間は目に見えるものを真実だと捉えがちだが、
 夢の中までそれを固持することもないだろう。

 夜空に浮かぶ三日月は不信を司っている。
 悠久を思わせる夕陽はすっかり沈んでしまった。
 人間は耳にしたものを分別する頭を持ってはいるが、
 大抵の場合良くない事ばかりが心に引っかかる。

 倦怠することもなく不信の渦にも巻き込まれない者は
 目の前の薔薇を緑だと言い張るだろう。
 血塗られて真っ赤に染まる薔薇を見たことがないのだ。

 誰もが埋葬するために掘った墓穴を自分のものとは思わない。
 都合の良いたるんだ考えが墓堀人の失笑を買うのだ。
 そして真心はいつの世も苦しみの中から生まれる。
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