マニキュアの存在意義/小川麻由美
私は褐色がかった指に
マニキュアを塗る
輝く爪を手に入れるため
これまでは
手をほめてくれる
人達がいた
大切にしていた
私の白い手は
褐色になりつつある
鋭角の風のように
痛い 悲しい
私はマニキュアを塗る
笑顔でいたいから
何度も 何度も
チャームポイントを
失いつつある
白い手を欲する
悪あがき
悲嘆
苦しみ
愛情
友情
慈しみ
なんでもござれ
もう終電が過ぎつつあるのは
知っている
私は褐色がかった指に
マニキュアを塗る
生を謳歌するため
杖をつく手に
輝く爪は
似つかわしくないかもしれない
瞬間の連鎖を生きる私は
自分自身に美を欲する
今日もマニキュアを塗る私
子のない私
何かを残したいという欲求
今日のマニキュアの色は
切なさを露呈している
私の意図に反して
蝕んでいく
蝕まれている
この広がりは
早急に止めなければ
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