メガネの店で/為平 澪
 
メガネをかけた店員が私を緑のサツマイモだと言った
もう一人の店員は私のことを赤いキュウリだと言った
どの棚にも私の居場所はなく、
北海道の男爵やクイーンが
同じ棚には並びたくない、と言い出し
国産のパプリカやトウガラシが、怪しそうに
私を異端視した

私はその店の悩みの種となった
数々の異なる声に身の置き所をなくした私は
袋に詰められ小さくなって売れないまま
どんどん日増しに腐っていった
もう私自身、何色だったのか何だったのか
見分けがつかなくなっていた

店頭から排除されようとしたとき
メガネをかけてない人が、私のことを
良く熟れた黄桃ね、と自宅の仏壇に祭って
手を合わせてくれた

見えないものに手を合わす、
メガネをかけてない人の目線は
今の私に丁度いい

戻る   Point(14)