さわら/あおい満月
(世界は、針の骨を隠して生きている)
その身にさくり、
前歯を立てる。
雪のような淡白な
甘味のある肉の味が
春の風を呼んでくる。
けれどもその下で
支えている鋭い骨は
どこまでも伸びている。
人差し指と親指で
摘まみ出してみると
刃渡り10センチ弱
まさしく和裁の針に似ている。
ふと、この世界を思った。
人々は皆、
私でさえも
雪のような真綿の中に針を隠して生きている。
そうしないと喰われてしまうから。
鰆。
おまえも、その美味な味の裏には、
厳しい冬の海を生きるための
鋭く強い骨を鍛え上げてきたのだろうか。
すべては春のために。
ただ春のために。
鰆。
お前を食べる度に、
儚く散っていく
花の息吹を感じるよ。
(世界は、針の骨を隠して生きている)
それぞれの春を追いかけながら、
冬の海を生きている。
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