本を育てる。/梓ゆい
 
「もう誰も、必要とは思わないのですね・・・・。」と
黄ばんで染みだらけのまま
段ボールに詰められて家を出る文庫本の呟きが聞こえた。
 私は
父の遺骨の欠片をぽっけに入れたときのように
読んでいた光景とタイトルを思い出しながら
家族と同じ数の本を
黙って横に置く。
  
 (それは、父の残した魂の一部かもしれません。)
 教養の一部として
 これからも娘たちの人生を支えたいという親心からくる。
 本を開くとき
湧き上がる想いや心・父の好きだった一節を共有すれば
目に見えない世界に居るはずの父に会えるとも
考えてよいのでしょうか・・・・?
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