家霊/為平 澪
突然の地震で硝子戸から こけしや人形のたちが落ちて
首と胴体が切り離されて 頭がどこまでも転がっていった
電子レンジがガガガガと 上手く喋れなくなり
冷蔵庫は大鼾をかいて 安眠した
洗い場にぶら下がっていた豆電球がSOSの指示を出しても
誰も助けには来なかった
白熱灯は高熱に魘され 頭がショートしてキレた
トイレの水は水であることを忘れて 土になろうとした
風のない夜に決まって 瓦が三枚づつずれ落ちる音を
濁った井戸が滴を毎夜 滴らしめて仏間に合図を送った
台所の置時計の針は とうとう時間軸を突き破り
時を殺す
白蟻が昼間の空に 人灰と粉骨のうねりを
屋根にまき散らし始めた
家具やベッドは廃棄され マットの涙は乾いてしまった、のに
横たわっていた人の眼が 抜け殻になってゆく家の行方を
見守るように 監視する
戻る 編 削 Point(9)