時のゆりかご/西天 龍
 
昭和四年に起こった世界大恐慌で
日本の主要輸出産業であった製糸業は大打撃を受け
以降衰退の一途をたどった
当時、豊かな養蚕地帯であったこの地方も
その影響は免れず
伝来の土地を守るために長男が家に残り
あとの兄弟は離散していった

そんな故郷の歴史を改めて知り
幼いころの記憶がよみがえる
桑の実を摘み、生い茂った葉は絶好の隠れ家だった
家に帰れば「おかいこさま」が葉を食む音に溢れ
蚕棚の下に寝かされもした

半世紀以上も前の微かな記憶ではあるが、
戦後ではなく、東京タワーはもう出来ていた
野や山にあるもの以外、ろくな玩具もなかったが
忙しく遊んでもらえない寂しさ以
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