疼き/ヒヤシンス
あてどもなく私は私だけの絵画を求め歩いてゆく。
町を抜けると海に出る。
なぜだか私の見る海はいつも孤独に満ちている。
停泊している貨物船に群がる鳥たちの声も聞こえない。
待ち人のあてもないまま海浜公園のベンチに腰を掛ける。
この海はモノクロームの無声映画のようだ。
岸壁に寄せては返す波すらもぎこちない。
一コマを切り取るのは容易いがどの場面にも匂いが無い。
見慣れた風景に手を伸ばしても何も掴めない。
こんな場所から抜け出す勇気。
私にはそれが必要なのだ。
私が苦しかろうとそうでなかろうと海は動じない。
私には大海原が砂漠に見える。
ああ、私は芳醇な匂いを欲しているのだ。
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